運良く新宿で映画『ゴッズオウンカントリー』が観れたので感想を書かなければという使命感に駆られた

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映画『ゴッズオウンカントリー』の日本初公開は今年の7月下旬から開催された第27回レインボーリール東京~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭だった。私は行ったことないのだけれど、来年こそは、と思っている。

 その後、五回だけシネマートの「のむコレ」という企画で五回にかぎって上映に漕ぎ着けた。公式サイトには「配給:ゴッズオウンカントリー上映委員会」と表記してあるが、実は映画プロモ―ションを手掛けているフリーランスの方がポケットマネーで上映権を買って実現した肝いり企画らしい。twitterで感想を流し見していただけだったので、てっきり普通に新宿やら渋谷やらの単館系シネマで公開されているものだと思っていたんだけど、そうは簡単に事が運ばなかった。今後も配給の予定は未定(※追記あり)という事実を知り、慌てて上映スケジュールを調べた。平日がヒマなフリーターでよかったなぁと思うのはこういうときかもしれない。ネットでチケット予約ダッシュしたのはかなり久しぶりだった。公開規模やチケットが取りづらくなっている要因はぜんぜん違うけれど2016年の『君の名は。』以来かなぁ。あの映画を観てから、私はセカイ系に向いてないということに気付いた(小声)

追記 

この記事の下書きを書いたのがシネマート新宿に上映を見に行った翌日の12月18日ごろだったのですが、約一週間の間に動きがありました。来年の2月2日から『ゴッズオウンカントリー』の拡大公開が決定したようです~~!都心から離れたところに住んでいるたくさんの人にこそ見られるべき映画だと思っていたので本当にめでたい!積極的に布教...じゃなくて人に勧められるし「おかわり」も気兼ねなくいける。チケットの数に限りがあって、予約サイトのサーバーが落ちるぐらい多くの人が見たいと思っている状況で、二回目を観るのは躊躇われたのでね。競争率が高いのでそもそも二度目のチケット取れる可能性も微妙だったしね。年明けにまた観に行くと思います。

本作は今年の7⽉、セクシュアル・マイノリティをテーマにした映画祭「第27回レインボー・リール東京 ~東京国際レズビアン&ゲイ映画祭~」でジャパンプレミア上映され、700席(350席×2回)が完売。その後も、⽇本での配給会社が決まらないままになっていたが、個⼈で劇場での上映権を5回のみ買い付けた⼈物による上映が、特集上映「のむらコレクション(のむコレ)」にてシネマート新宿で12⽉2⽇からスタートすると、上映回5回が全て満席、立ち見も出るヒットを記録した。再上映を望む声が絶えない中、今回ついに配給会社(ファインフィルムズ)による緊急拡大公開が決定した。

realsound.jp

『ゴッズオウンカントリー』公式サイト(NEW !!)

www.finefilms.co.jp

概要

原題  "God's Own Country" 2017年のイギリス映画

監督 フランシス・リー Francis Lee

出演 ジョシュ・オコナー Josh O'Connor(ジョニー・サクサビー)

   アレック・セカレアヌ Alec Secăreanu(ゲオルゲ・イオネスク)

   ジェマ・ジョーンズ Jema Jones(ディードゥリー・サクサビー)

   イアン・ハート Ian Hart(マーティン・サクサビー)

   ほか

予告編

youtu.be

あらすじ

「神の恵みの地」と呼ばれるヨークシャーを舞台に、大自然の中で求め合う2人の孤独な青年の愛の行方を描き、ベルリン国際映画祭をはじめ世界各地の映画祭で高評価を獲得したラブストーリー。年老いた祖母や病気の父に代わり、家族経営の寂れた牧場を切り盛りする青年ジョニー。孤独な労働の日々を酒と行きずりのセックスで紛らわす彼のもとに、ルーマニア移民の季節労働者ゲオルゲが羊の出産シーズンを手伝いにやってくる。はじめのうちは衝突してばかりの2人だったが、羊に優しく接するゲオルゲに、ジョニーはこれまで感じたことのない恋心を抱きはじめる。

ゴッズ・オウン・カントリー : 作品情報 - 映画.com

感想

地方で暮らしているもう一人のジョニーやゲオルゲ、そしてたくさんのレズと仲間たちへの讃歌

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https://www.metroweekly.com/2017/11/gods-own-country-exclusive-interview-with-director-francis-lee/

地方で美しい自然に囲まれながら畜産業に従事するゲイカップルの作品というと、国内外の映画ファンの皆様はやはり『ブロークバックマウンテン』がまっさきに思い浮かぶらしい。実は未見で、あらすじのネタバレを読んだことしかない。観た人がみな口を揃えて悲恋ものだって言うから...メンタルが無敵な気分のときに見ようと思いつつ、時は流れた(笑)

そんなわけでレビューや解説を読んで、ほんのさわりだけ理解した『ブロークバックマウンテン』についても一応触れておこう。『ブロークバックマウンテン』はアメリカ、ワイオミング州の山を舞台にした話だけど、さすがに1960年代のアメリカ中西部の話なのでとりまく社会の状況がめちゃ保守的。1967年までは(ヘテロセクシャルで)異人種間の結婚や性交を違法とする州法がアメリカ各地で残っていた*1くらいなので、判決が出る直前の同時代に生きた同性のカップルというだけで風当たりは推して知るべし、というわけだ。

一方の『ゴッズオウンカントリー』(以下、GOCと書く)の舞台は、現代のイングランドのヨークシャー地方だ。メインキャラクター、ジョニーは家族経営の牧場を実質ひとりで運営しているはたちそこそこの若者である。話し方からして不器用で無骨。でも朴訥で気のいい兄ちゃんタイプではなくぶっきらぼう。父親は病気の発作の後遺症で半身に麻痺が残っていて杖が手放せないが、思考と話し方に不自由はなさそうだ。厳格な父は、肉体労働はできない身だが口は動くため、後を継いだ若い息子の慣れない仕事ぶりを見るとあれこれ叱りたくなって仕方がない。一方息子のジョニーは遊びたいさかりに実家で働きづめで、毎晩町のパブで荒れていた。二日酔いの日々が続き、繁忙期に使い物にならない息子に父が業を煮やして短期労働者を募集したところ、ただひとり応募してきたのがルーマニア出身のゲオルゲだった。

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http://www.siskelfilmcenter.org/godsowncountry

このゲオルゲがまあ人格者なんだな。序盤のジョニーの「おいおい大丈夫か」と思わせる幼い振る舞いが目立つところをゲオルゲが優しくフォローする。

ジョニーにとってゲオルゲは、最初の晩にゲオルゲを迎えに行ったところで一目見て「マジかよ」とつぶやくあたりからおそらく見た目が「どタイプ」なんであろうが、一方で父から短期で雇われた従業員であることから自分へのあてつけに感じられ、面白くない存在だ。家に新しくやってきたセクシーな季節労働者をバチバチに意識してるゆえに、わざと「ジッポ」と侮蔑語で呼び、つっけんどんな態度をとる。「ここに来たことを後悔するだろうよ」的なことを言ってからトレイラーの扉をバッチーン!と音を立てて閉める。子どもか。

そんなジョニーに対し、一度は本気でその呼び方はやめろと諌めるものの、基本的にはちょ~優しい。「小屋は寒いから手袋もってけ」と言う実のばーちゃんに反抗してわざと軽装で極寒の放牧地に出てきて案の定こごえているジョニーの手を温めたり。ジョニーが素手で石垣の補修をしていて手を怪我すれば、傷口の手当をしたり。即るだけで交際関係に発展したことがあまりなかったであろうジョニーは優しく手当されてノックアウトされてしまった。

序盤は素直になれよ、というもどかしい気持ちでジョニーを観ていたのだけれど、恋におちて目の色が変わる様は単純で可愛い。そして視線だけで演技をするジョシュ・オコナー君はすごいぞ。

ところで、海外のエンタメファンやLGBTQコミュニティの間では「映画やTVシリーズに登場するLGBTのキャラクターは異性愛者のキャラクターと比較した場合、悲惨な運命をたどりがちである」という認識が共有されている。ホラー映画でアフリカ系のキャラクターが最初に犠牲になりがちなのと同様に、ゲイやレズビアンのキャラクターもばんばん(脚本の中で)殺される。カップルであれば気が強いほうと弱い方がいて、弱い方が死ぬ。レズビアンはvillan(悪役)になりやすく、視聴者にキャラクターの死でもってカタルシスを与えるために殊更に無残な死に方をする。People of color=白人以外でクィアなキャラクターなら作中で不運な死に至るオッズは二倍である。アジア人でクイアな私も震えちゃうわ。この傾向は「ホモフォビックなお決まりのストーリー」と揶揄され、歓迎はされていないようだ。*2 

GOCはそんな過去の幾多の惨劇(?)を乗り越え、ゲイカップルが結ばれる話だ。父が再び発作を起こし、一命は取り留めるもののリハビリが必要になってしまう。ゲオルゲの労働期間は当初の予定より延長されていたが、広大な牧場をひとりで切り盛りすることに限界を感じていたジョニーはゲオルゲに「できればずっといてくれ」と頼む。その言葉とは裏腹に、ゲオルゲはジョニーの未成熟な気質に愛想をつかして一度は農場を後にする。ジョニーは彼の次の出稼ぎ先まで追いかけて説得し、二人でヨークシャーの農場に帰るバスの中で眠るところで映画は終わる。

いやもうこのね、結末が現代的なんだなやっぱり。「親にゲイバレして勘当されたので故郷の農場は捨ててゲオルゲと駆け落ちし、ロンドンに渡る」とか「ゲオルゲのことは胸に秘めつつセクシャリティを『封印』して日常の農場の仕事に戻る。経営が軌道に乗ったところでゲオルゲに会いに行くが、彼は病気で若くして死んでいた」とか「美しい同性愛者たちの禁じられた愛と不幸な生涯」的な「よくある顛末」はいくらでも思いつくのだが、その予想をいい意味で裏切り、パートナーとして一緒になるのだ。

東京で暮らしていると忘れがちだけど、二丁目のクラブイベントにいる人たちや東京レインボープライドを歩く人たちだけがLGBTQコミュニティのすべてじゃないわけで。二丁目も行かず、ゲイカルチャーにも浸からず、孫の顔が見たいなんて言われながら地元で働いている、会ったことのない仲間たちにこそ観てほしいよ。

残念ながら現在の日本における婚姻制度は男女カップルにしか開かれていないわけで、もし日本でオープンリー・ゲイのカップルが農場を経営していたらめちゃめちゃリベラルな土地柄じゃないと風当たりが厳しそうだけど。*3

さらに付け加えるとゲオルゲとジョニーは「結婚」したわけではなく仕事と生活を共にするパートナーとして暮らしていくみたいな終わり方だった。日本では自営業だと子どもを跡継ぎにする傾向があることから、さらに結婚至上主義的な雰囲気もあるんじゃないかと想像できるので、事実婚の同性の「他人」同士が農場を営んでた日にゃー珍しすぎて新聞の取材とか来そうだけど(笑)。 私は結婚したことも家業を継いだこともないので、ここまで私の妄想なんですが、当たらずといえども遠からずといった感じではないでしょうか。

そういう現実があるからこそ、ロックスターやドラァグクイーンでもない、ファッションセンスが抜群なわけでもない、「ステレオタイプにあてはまらないゲイ」が地方で地味~に幸せな暮らしをしている映画って希望だと思う。フィクションの中でぐらい、日常と地続きのちょっといい夢を見たいじゃない。こういう内容の映画が全国公開されるのは意義があることだよ。というわけで配給会社の回し者みたいになっちゃうけど(違う)皆さん来年の2月になったら映画館に足を運んで下さいね(ここで小タイトルに戻る)

「ここは美しいけれど淋しい」

ところでGOC、セックスがまじ熱すぎな。ストレートな表現でごめん。「ラブシーン」とか「官能的な場面」とか「おせっせ」とか婉曲的に言えば言うほど恥ずかしくなってくる性分なんだ。twitterではよく「フェミニズムは一人一派」と言われているけれど、私はセックス観も一人一派だと思っているので私の感じ方が正解で他が間違いというわけじゃないよ。ただ、セックスって言いまくられるのが苦手な人は回れ右した方がいいかも。

と、ここまで長めの前置き。

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 ヨークシャー・デイルズ国立公園の風景

ジョニーとゲオルゲは放牧している羊の出産を手助けするために、丘の上の小屋で寝泊まりする。字幕では「丘」、作中ではhillと言っているからまぁ丘なのだろうが東京郊外の典型的なベッドタウンで育った人間からするとGOCの舞台、ヨークシャー地方のそれは「丘」という単語から想像できる風景のスケールを越えていて、わりとガチな高原である。無理やり日本の土地で例えるなら、行ったことはないがテレビで見る北海道の農場の映像に近い。風に晒される厳しい環境なので丘の上にある石造りの小屋は朽ちかけていて、顔を見上げると空が見える。昼間は羊の世話をし、夜は小屋の床に藁を敷いて寝袋にくるまって横になるのだが、相手の息遣いが感じられるような狭い屋内でお互いの存在を否応なく意識してしまい、眠れない日が続く。

明け方にゲオルゲが用を足しに外へ出たところで、ジョニーも物音で起き、そのまま勢いで地面に押し倒す。なにやら霧っぽい感じの画面に湿った地面の上で無骨な男2人が泥まみれで荒々しい動作で組んずほぐれずしているあたりのシーンは神話的な美しさと滑稽さの境界線上にあるという感じ。観客がふとメタ視線モードに入っちゃうと滑稽に思えちゃうかもしれない。その辺は感想が分かれそうだなぁというところではある。

このawkwardでぎこちない、他人行儀なセックスが、 二回目は優しくてホットなセックスに変わってくのね。ゲオルゲが羊の世話をするみたいにそーっと触れるのでジョニーは息が絶え絶えで。あとジョニー君めっちゃ声出すタイプな。色っぽい。

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https://www.reddit.com/r/bisexual/comments/9a6s7z/cries_in_bisexual/

私の下手っぴ~な解説はこれぐらいにしますが、うん、良かった。ゲオルゲの英語は流暢ながら無口なタイプなのでハンドジェスチャーや手仕事の優しさが画面の中でフォーカスされてるの。羊のチーズ作ったり、家族が留守にしている家のテーブルに水仙の花(多分)を生けたり。ゲオルゲに会ったばかりのころのジョニーは口を開けば悪態をつくばかりで、厳しい自然の映像と相まって画面の空気も荒涼としていたんですが、ゲオルゲの優しさに触れて、ぽっと灯りがついたように映画が息をし始めるのだ。マスキュリニティの特性とされることも多い、強引さや性急さではなくゲオルゲの内面の親切さがセクシーに描かれているところが素敵だ。"It's beautiful here, but lonely, you know. " ルーマニアの農村出身で「(故郷は)国としては死んでいる」ためイギリスに移民としてやってきたゲオルゲは、田舎で葛藤しながら暮らすジョニーの境遇に通じるものがあったのだろう。風が吹きすさぶグレーの画面が、ゆっくりとたき火や室内の暖色の画面に変わっていく点が印象深い。木枯らしが吹く冬なんかに観たい映画です。

 

勝手に採点

    気付いたら6000字近く書いてしまって驚愕度 ★★★★☆

    趣味が合う人に積極的におすすめしたい度 ★★★★★

*1:1967年のラビング対バージニア州裁判の判決により撤廃。アメリカ合衆国最高裁判所はヴァージニア州の反異人種間混交法である1924年人種統合法について、アメリカ合衆国憲法修正第14条の平等保護条項に反しているため、憲法違反であると宣言した。ラヴィング対ヴァージニア州裁判 - Wikipedia

*2:Bury Your Gays - TV Tropes

*3:イギリス(グレートブリテンおよび北部アイルランド連合王国)では2013年に同性婚を認める法律が成立し、2014年からイングランド、ウェールズ、スコットランドで施行された。北アイルランドや海外の英領など例外がある。この映画の舞台であるヨークシャー地方はイングランドに属している。http://gladxx.jp/news/2013/07/3354.html