ぼっちクリスマスだけどなにか?全編iPhoneを撮影したトランスジェンダー映画『タンジェリン』の感想

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最近クイア映画を見てないなあ、そろそろ摂取(?)しておかなければと思っていたところ、Netflixに上がっていたのでクリックしてみた。ときどき「ヘテロ!恋愛!感動!性愛!家族の絆!」みたいなメッセージを打ち出した映画やドラマばかりが世間に溢れ返ってるような気がして勝手に疲れてしまう。

 

疲れてしまうと言ってもそんなに大げさなものではなく「あぁ、またか」程度の「慣れている疲れ」なんだけど。たぶん心の余裕がないのだろう。心の充足は胃袋を満たしてから、という格言をいま思いついたので天下一品いこうかな。

 概要

原題 "Tangerine"  2015年のアメリカ映画

監督 ショーン・ベイカー

脚本 ショーン・ベイカー

制作 マーク・デュプラス

撮影 ショーン・ベイカー

編集 ショーン・ベイカー

出演 キタナ・キキ・ロドリゲス(シンディ・レラ)

   マイヤ・テイラー(アレクサンドラ)

   ラズミック(カレン・カラグリアン)

   チェスター(ジェームス・ランソン)

   ミッキー・オヘイガン(ダイナ)

   ほか

あらすじ

太陽が照り付けるロサンゼルスのクリスマス・イブ。街角のドーナツショップで一個のドーナツを分け合うトランスジェンダーの二人。28日間の服役を終え出所間もない娼婦シンディーは、自分の留守中に恋人が浮気したと聞きブチ切れる。歌手を夢見る同業のアレクサンドラはそんな親友シンディをなだめつつも、その夜に小さなクラブで歌う自分のライブのことで頭がいっぱい。さらに、彼女たちの仕事場の界隈を流すアルメニア人移民のタクシー運転手、ラズミックも巻き込んで、それぞれのカオティックな1日がけたたましく幕を開ける!

映画『タンジェリン』公式サイト

予告編

youtu.be

 感想

すご~く雑な言い方をすると「特に何も起こらない系」の映画

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クリスマスのストリートでの出来事を題材にしている。街娼やタクシードライバーを生業にしている登場人物たちには、ホリデーだろうといつもどおりの仕事が待ち受けているという現実がありつつ、客からは「クリスマスなんだからおまけして」「クリスマスだから多めにみて」家族からは「クリスマスなんだから家族と過ごそう」などと求められて、台詞から浮かれた世間との温度差を感じる仕立てになっていた。

小売・サービス業界で働く者のはしくれとして、ホリデーシーズンというか日本で言う盆暮れ正月に「いつもどうり」の業務を続けるわびしさは感じるものがあったよ。人生において家族がいないから・パートナーに浮気されてるから・安定した職業ではないからといって、人としての資質が欠落しているということは建前としてはないはずなんだけど、よくわからない世間体の前でこっちが逆に透明人間みたいになってしまう瞬間があるよな。

プロの技術に裏打ちされたホームメード映画

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思っていたことを言語化したら、頭の中で考えているときよりも二割増しでボヤキが入った文になってしまった。いかん、こんなはずではなかったのに。気を取り直して、映像の見た目について書いてみよう。映像の色調が彩度高めで、iPhoneの「クローム」フィルターとかちょっと前のインスタのフィルターみたい。トイカメラみたいなの鮮やかな色合いの映像で他とは違う風合いをだしつつ、音質と画角は普通の映画サイズでストレスなく見れる。事前情報なく観たのであとでぐぐったインタビューによると、音質にはプロ仕様でこだわって、画角はスタンダード映画サイズでの撮影を可能にする外付け型レンズを使用したんだって。私は(もちろん)ただの映画にわかギークで、製作側ではないのでまったく知らなかったんだけど、世の中には色々な便利ガジェットがあるんだねぇ(小並み感)*1

タンジェリンってどんな意味

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映画の中でタンジェリン(オレンジ)が直接的に出てくるのは一回だけ。アレクサンドラがラズミックに、車用の芳香剤をプレゼントするのだけれど、これがオレンジのモチーフなのだ。クリスマスオレンジという品種の柑橘類が北米で広く売られていて、日本ではこたつにみかんぐらい欠かせないものとなにかで読んだことがある。クリスマス精神とか、人に少し誠実に接することの象徴なのかな。

『フロリダ・プロジェクト』を観たときも思ったが、ショーン・ベイカーの映画に出てくる人物はよく歩く。あんまりお金持ってない感じの若者や、子供が画面の右側からずーっと左側まで、郊外の道路をずーっと歩いていくのを俯瞰でとらえているのだ。文字通りのストリート目線。

スペイン語のことわざで ”Tu eres mi media naranja” (あなたは私のオレンジの片割れ)というものがある。中退した大学で第二外国語のスペイン語の単位を落としたくらいだから、ポピュラーなことわざなのか、それとも死語同然なのか詳しいことは分からないのだが。ちなみにスペルも怪しかったんでもちろんコピペしました。本来は「分かちがたい恋人・運命の人」への愛情表現だと思うけれど、シンディとアレクサンドラの関係や、タイトルを見ると、このことわざが思い出される。いや、愛だよね...みたいな。ラストシーンにつながる話になるので詳しくは書かないけど、長い一夜のあとでいろいろあったけど友情はアツいよね、みたいなシーンがある。「性愛の関係はないけれど深い愛で分かり合ってる特別な友人」系の話に弱いので観てよかったなあと思った。記事タイトルには短い言葉で「ぼっちだけど何か?」って書いたけど「交際契約とか婚姻とかしてないけど私は私をあなたはあなたの人生を生きていくわけで、そのうえでいろいろ笑い飛ばせる気の置けない友人がいるのも悪くないでしょ?どや」みたいな印象でした。いや~~熱いな~~~広義の愛。ていうかもう普通に愛。

 

『タンジェリン』:ショーン・ベイカー監督インタビュー - i-D

追伸

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ガソリンスタンドで自動洗車しながら、車内でブロウジョブされるシーンはまじで天才だと思った。チン子を吸ったり吸われたりしてるシーンってわりとまぬけだと思うんだけど、これはMost beautiful blow job scene I've ever seen. 読者の皆さんは何言ってるかわからないと思うが、かくいう私も自分で何を言ってるかわからない。とにかく圧倒的なセンスが爆発していた。このシーンだけで観る価値がある。と思う。ちなみにチン子そのものとか、映倫のまぬけなモザイクはでてこないです。